なぜ働いていると本が読めなくなるのか(Deep Research版)
三宅香帆 (著)「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」 (集英社新書)の同一タイトルでDeepResearchしてみました。原著 https://amzn.asia/d/aVtNSBm と読み比べてみると興味深いです。
以下はAIによる生成、未編集です。
日本における労働と読書の関係について、歴史的背景を含めて調査し、日本人の「仕事と読書」の変遷と、それに伴う労働環境の問題点を明らかにします。
日本における労働と読書の関係:歴史的観点からの調査報告
はじめに
本報告書では、日本における労働環境と読書文化の関係について、歴史的な変遷を踏まえて考察します。江戸時代から現代までの読書習慣の変化を追い、戦後の高度経済成長期やバブル期、不況期、そして現在の労働環境が読書に与えた影響を分析します。また、海外の労働環境や読書文化と比較し、日本特有の問題点を探ります。最後に、労働と趣味(読書)を両立するための方策について提案します。
1. 歴史的背景:江戸時代から現代までの読書文化と労働環境
江戸時代の日本では、庶民の識字率が当時の世界でトップクラスに高く、読書文化が非常に発達していました。推計では、江戸時代後期の識字率は江戸の町で約70~80%、全国平均でも60%以上に達していたとされます (西洋を圧倒!江戸時代に日本が世界屈指の「識字率」を誇っていた …)。これは同時期の欧米(イギリスやフランスで30%未満)と比べ突出しており、寺子屋教育の普及などが背景にあります (「学年なし」「時間割なし」だった江戸時代の教育 識字率世界一は …) (西洋を圧倒!江戸時代に日本が世界屈指の「識字率」を誇っていた …)。識字率の高さに支えられ、読書は当時の人々にとって最大の娯楽でした (8.22Tue.「読書を楽しむことの大切さ」)。実際、江戸末期の江戸(現在の東京)だけで貸本屋(本の貸し出し業)が約800軒も存在し、多くの庶民が本を借りて読書を楽しんでいたことが記録されています (江戸時代の読書のヒミツ(前編)―人々の読み書きレベル — 公文式)。このように江戸時代には労働の合間や余暇に読書をする習慣が広く根付いており、文化面での自己啓発や娯楽として読書が盛んでした。
明治時代になると、近代教育制度(学制)の導入により国民皆教育が進み、識字率はさらに向上しました。19世紀末から20世紀初頭までに初等教育が普及し、大正期には若年層の識字率は事実上100%近くに達しています ([PDF] 近代日本のリテラシー研究序説 : 付・文献目録)。これに伴い、新聞や雑誌、小説などの出版文化も発展し、読書は知識習得や教養・娯楽の手段として定着しました。例えば明治・大正期には夏目漱石や森鷗外といった文学作品が広く読まれ、知識人のみならず一般庶民にも読書が浸透しました。昭和初期には図書館の整備も進みました。ただし、第二次世界大戦中は紙の不足や検閲もあり、娯楽としての読書は制限を受けました。
戦後、日本は民主化と教育の再開により読書文化が復興します。1940–50年代はテレビが普及する以前でもあり、人々は新聞・雑誌や書籍から情報や娯楽を得ていました。高度経済成長前夜の昭和20年代(1950年代)には、岩波文庫など安価な文庫本が多く刊行され、通勤電車で文庫本を読む「電車読書」もサラリーマンの文化として定着していきました。戦後間もない混乱期を経て経済が軌道に乗るにつれ、読書は自己啓発や教養を高める手段として奨励され、読書週間(1947年開始)など国民読書推進の取組みも始まりました。以降、現代に至るまで日本人の読書習慣は社会経済の変動とともに変化していきます。
2. 戦後の労働環境の変化と読書習慣への影響
戦後から現代にかけて、日本の労働環境は大きく変遷し、それに伴って読書習慣にも影響が及んできました。
- 高度経済成長期(1950年代後半~1970年代前半):
この時期、日本は驚異的な経済成長を遂げ、企業戦士とも呼ばれるサラリーマン像が生まれました。労働時間は総じて長く、残業や長時間労働が常態化しました。1980年代初頭には、日本は主要先進国で唯一労働者1人あたりの実労働時間が年間2000時間を超える国となっており、1960年以降徐々に労働時間は減少していたものの依然として非常に長時間でした ([PDF] Working time in Japan : Recent trends and issues)。長時間労働により平日の自由時間は限られましたが、一方で当時はテレビやインターネットなど現在のような娯楽が少なく、通勤電車での読書や仕事の合間の読書が貴重な娯楽・情報収集手段となっていました。実際、スマートフォンのない1970年代には、多くの人が通勤電車で本や雑誌を携帯し読んでいたと指摘されています (SNSがなかった頃通勤電車に乗る人々は何をしていたんだろう|mona)。つまり、経済成長期は労働時間が長い一方で、活字メディアへの依存度が高かったため、限られた時間を工夫して読書に充てる文化が見られました。また当時は新聞の発行部数も右肩上がりで増え、人々が活字に触れる機会は多かったと考えられます。 - バブル経済期(1980年代後半):
1980年代後半のバブル景気の時期も、引き続き長時間労働と過密スケジュールがサラリーマンの日常でした。仕事後の接待や深夜までの残業、週末のゴルフ接待など仕事中心のライフスタイルが広がり、ゆっくり読書に充てる時間の確保は難しくなっていきます。ただし可処分所得が増えたことで書籍や雑誌の購入には惜しまない人も多く、出版業界はこの頃空前の好景気を迎えました。実際、日本の出版市場の売上高は1990年に約2.13兆円だったものがバブル崩壊後もなお伸び続け、1996年に約2.66兆円のピークに達しています (【データから読み解く】国内出版・書籍EC・書店市場)。これは戦後最大の規模であり、本や雑誌への旺盛な需要を反映しています。しかし、こうした出版物の売上好調は必ずしも人々の読書時間の増加を意味しません。バブル期はレジャーや娯楽が多様化し始めた時期でもあり、余暇時間を読書以外に費やす人も増えていました。とはいえ当時はまだインターネットも普及前であり、活字メディアの地位は揺るがず、人々は通勤時や就寝前などに読書をする習慣を維持していたと考えられます。 - 平成の不況期・成熟経済期(1990年代~2000年代):
1990年代にバブルが崩壊すると、日本は長期の経済停滞期(いわゆる「失われた10年」「失われた20年」)に入りました。この時期、企業はリストラや人員削減で一人当たりの仕事量が増え、サービス残業(未払い残業)や過労死といった問題が社会に認知されるようになります。労働時間そのものは徐々に短縮傾向にあり、1995年には年間労働時間は1884時間、2009年には1714時間まで減少しました (Japanese work environment — Wikipedia)。しかしながら、実質的には仕事の密度や拘束時間の長さはあまり改善せず、依然多くの正社員が長時間労働を強いられていました。こうした中、娯楽の選択肢がTVゲームやインターネット、携帯電話と多様化したことも相まって、人々の読書離れが徐々に進行します。実際、文化庁の調査によれば2000年代終盤には「1か月に1冊も本を読まない」人の割合はすでに4割台後半に達していました (図録 国民の読書量)。2008年度時点で46.1%だったこの月間不読率(1か月に本を全く読まない人の割合)は、2013年度には47.5%とさらに上昇しています (図録 国民の読書量)。これは昭和後半から平成にかけて、徐々に読書習慣が衰退してきたことを示すデータです。背景には、経済停滞による心理的・時間的余裕の喪失や、漫画・ライトノベル・インターネットといった手軽な娯楽への嗜好の移行があると考えられます。また1990年代後半以降は携帯電話で電子メールや簡易なウェブ閲覧が可能になり、若年層を中心に長文の本を読む習慣が薄れる兆しも見えてきました。このように、不況期には労働環境の悪化とデジタル技術の進展が相まって、読書文化は徐々に後退していきました。 - 現代(2010年代~2020年代):
現在の日本の労働環境は、改善の努力はなされているものの依然として長時間労働と過度な労働プレッシャーが根強い状況です。政府は働き方改革関連法(2019年施行)で残業時間の上限規制を設けるなどしましたが、それでも企業文化としての長時間労働は完全には解消していません。実際、2016年の政府調査では約4分の1の企業で従業員に月80時間超の残業をさせていることが明らかになっています (Japan has some of the longest working hours in the world. It’s trying …)(月80時間の残業は「過労死ライン」とされる水準です)。このように現代でも多くの人が仕事に生活の大半を費やしており、帰宅後に読書に充てられる時間や気力が奪われています。その結果、活字離れの傾向は一段と顕著になりました。文化庁の最新の世論調査(2023年度)によれば、「1か月に1冊も本(電子書籍含む、雑誌・漫画除く)を読まない」人の割合は62.6%にも達し、2018年度の47.3%から大幅に上昇しています (「月に1冊も本読まない」が6割超:進む読書離れ―文化庁調査)。これは調査方法の変更を考慮しても急激な増加であり ([PDF] 令和5年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 — 文化庁)、現代日本における読書習慣の危機的状況を示しています。つまり現代の日本人の過半数は日常的に本を読まなくなってしまったのです。こうした読書離れの急加速には、労働環境のみならずスマートフォンの普及などデジタル環境の変化も大きく寄与しており、次章で詳しく検討します。
3. 現代日本の労働環境と読書がしにくくなった要因
現代において日本人が読書から遠ざかっている主な要因として、長時間労働、通勤時間の長さ、そしてデジタルメディアの浸透が指摘できます。それぞれについて具体的に見てみます。
- 労働時間の長期化と疲労: 依然として多くの日本人は平日に仕事で大半の時間とエネルギーを費やしています。フルタイム労働者の場合、仕事と通勤に1日平均で14時間程度を割いており (Work-Life Balance — OECD Better Life Index)、自由に使える時間は限られます。日本の正社員は週50時間以上働く割合が他国より高く、OECD平均の10%に対し日本ではそれを上回る多くの人々が「過労働」状態にあると報告されています (Japan — OECD Better Life Index)。こうした長い労働時間は、帰宅後や週末にまとまった読書の時間を確保することを難しくします。実際、1ヶ月に本を読まなかった人に理由を尋ねた調査では、「本を読む時間が確保できないから」が46.4%で最も多く、「本を読む気力がない」「他のことに時間を使う」といった回答が続きました ([PDF] 親と子の読書活動等に関する調査 — 文部科学省)。これは、長時間労働による時間的・精神的余裕の欠如が読書習慣を阻害していることを裏付けています。ある働き盛りの人の声として「読書をする気力はないが、スマホゲームを無気力に眺めてしまう」という本音も紹介されています (読書と労働は両立しないのか?|やひろ — note)。忙しい日々の中で心身が疲弊すると、読書のように集中力を要する行為よりも、スマートフォンでSNSやゲームを漫然と見て過ごしてしまう人が多いのが実情です。このように、過度の労働は余暇時間の減少と疲労蓄積を招き、それがそのまま「読書離れ」につながっていると考えられます。
- 長い通勤時間: 日本、とりわけ大都市圏では通勤・通学に費やす時間も読書環境に影響を与えています。総務省「社会生活基本調査」によれば、日本人の平均通勤時間は片道約39.5分、往復で約1時間19分にも及びます (【ホームズ】通勤に片道1時間半かかる場所のメリットとデメリット …)。東京都内勤務者では往復通勤時間が平均1時間35分とさらに長くなります (通勤時間の平均はどれくらい? — 東急リバブル)。この毎日の通勤時間は、本来であれば読書に充てることも可能な貴重な隙間時間です。事実、スマホ登場前の時代には多くの人が電車内で新聞や書籍を読んで時間を有効活用していました。しかし近年では、満員電車のストレスや、車内でのマナー意識(紙の新聞・書籍を広げにくい混雑)もあって、通勤中の読書離れが進んでいます。その代わりにスマートフォンでニュース記事やSNS、動画を見て過ごすケースが増え、長編の本を腰を据えて読む人は少なくなりました。「通勤電車内で本を読む人がめっきり減った」という声はしばしばメディアでも報じられています。通勤時間そのものは潜在的な読書時間となり得ますが、現実にはデジタルデバイスの台頭によって読書の機会が奪われていると言えます。
- デジタルメディア(スマートフォン・インターネット)の影響: 2000年代後半から急速に普及したスマートフォンは、人々の生活様式と余暇の過ごし方を一変させました。2008年頃にスマホが登場して以降、出版業界の指標(出版業・新聞業の産業活動指数)は下落傾向が一段と強まりました (活字離れは本当か?|その他の研究・分析レポート — 経済産業省)。スマホは常に持ち歩く個人端末として、SNS、ニュースアプリ、ゲーム、動画配信など強力で手軽な娯楽を提供します。その結果、人々はスキマ時間にまずスマホを手に取るようになり、本を読む習慣が薄れていきました。特に若年層では紙の本をほとんど読まず、情報はすべてスマホで済ますという人も珍しくありません。実際、活字離れ現象は「スマホやパソコンに時間を取られること」が主な要因との指摘があります ([PDF] 親と子の読書活動等に関する調査 — 文部科学省) (活字離れは本当か?|その他の研究・分析レポート — 経済産業省)。スマホ上で読めるコンテンツも文字情報ではあるものの、多くは短い記事やSNSの文章であり、本という形で知識や物語にじっくり向き合う行為とは異なります。結果として、読書への集中力や習慣がデジタル断片情報に分散・侵食されているのです。また電子書籍が普及しつつありますが、紙の本の代替として一般書の電子書籍利用率は欧米に比べ高くはなく、日本では電子書籍市場の多くを漫画が占めています (日本の出版販売額 | 出版科学研究所オンライン)(2022年時点でコミック(紙+電子)の市場シェアが4割超 (日本の出版販売額 | 出版科学研究所オンライン))。総じて、スマートフォンという強力なメディアが読書習慣を奪っている側面は否めません。現代日本で読書がしにくくなった背景には、このようなデジタル社会の到来による活字以外の娯楽増加が大きく影響しています。
以上のように、現代の日本人が読書から遠ざかっているのは、長時間労働による時間・余力の不足と、通勤・生活環境におけるデジタルデバイスの浸透が重なった結果といえます。「仕事が忙しくて本を読めない」「ついスマホを見てしまう」という状況が多くの人に共通する現実となっており、それが統計にも表れています。
4. 海外との比較:労働環境と読書文化の違い
次に、海外の労働環境や読書文化と比較し、日本特有の問題点を分析します。
労働時間・働き方の比較: 欧米諸国と比べて、日本の労働環境は依然として労働中心的であり、そのことが読書習慣にも影を落としています。例えばヨーロッパの多くの国では法定労働時間が週35~40時間程度に制限され、長時間残業も厳しく規制されています。ドイツやフランスなどでは有給休暇の消化率も高く、労働者は長期休暇を取得して余暇を充実させる文化があります。対照的に日本では、有給休暇を遠慮して十分取得しない人が多く、終業後も同僚との飲み会や仕事関連の付き合いが入りがちで、プライベートな時間の確保が難しい傾向にあります。このようなワークライフバランスの差が、趣味としての読書時間にも影響を与えています。統計的にも、OECD諸国平均では従業員の10%程度しか週50時間以上働いていないのに対し、日本ではその割合が大きく上回り最も長時間労働の国の一つとなっています (Japan — OECD Better Life Index)。例えばオランダやノルウェーでは週50時間以上働く人は1%程度に過ぎないとの報告もあり (Revealed: the countries with the best and worst work-life balance …)、日本との労働文化の違いは明らかです。
読書習慣の比較: 読書習慣についても、日本は先進国の中で低下傾向が際立っています。アメリカのピューリサーチによる調査では、「過去1年間に1冊も本を読まなかった」成人は23%程度で、逆に言えば約77%の人が年に1冊以上は何らかの本を読んでいます (Who doesn’t read books in America? | Pew Research Center)。EU(欧州連合)の調査でも「過去12か月に本を読んだ」人の割合は52.8%で、半数以上が年に一冊以上読書をしているという結果があります (Younger people and women in the EU read more books)。一方、日本では先述のように「1ヶ月に1冊も本を読まない」人が6割を超えており (「月に1冊も本読まない」が6割超:進む読書離れ―文化庁調査)、単純比較はできないまでも読書頻度の低さが目立ちます。年単位で見ると、日本でも「年に1冊も本を読まない人」の割合はおそらく欧米より高いと考えられます(文化庁の2008年調査では1年間で読んだ本が0冊という人が約36%いました (国民の半数が1年に1冊も読まない国で子どもに読書をさせるには)との分析もあります)。また日本では読書の中心層である若者の離れが深刻で、16~19歳の若年層の約半数以上がまったく本を読まないというデータもあります (【主張】国語世論調査 活字文化振興にメディアの努力も | ニュース)。対して欧米では若者の活字離れはあるものの、学校教育で読書量を維持する取り組み(読書感想文の課題やブッククラブなど)が行われたり、図書館・書店が交流の場になったりしています。例えばフィンランドなど北欧諸国は労働時間が比較的短く休暇も長いため、余暇に読書を楽しむ人が多い傾向があります。フィンランドでは25~59歳の社会人でも1日平均17分を読書(書籍)に費やしているとの統計があります (Daily time spent reading books in Finland 2020, by age group)。一方、日本人全体で見ると1日あたりの読書時間は2016年時点でわずか8分程度(活字離れ層も含めた平均)との調査もあり、国際的に見て読書時間が短い部類に入ります。つまり、海外に比べ日本は労働に追われて読書に割ける時間・意識が低くなりがちだと言えます。
文化的な位置づけの違い: 読書に対する文化的な位置づけにも違いがあります。日本では「勤勉に働くこと」が美徳とされる一方、「読書」はどちらかというと趣味的・個人的な行為とみなされ、仕事中や仕事優先の生活の中で読書に時間を割くことに罪悪感を覚える人もいます。「読書って、仕事より優先させたり肩を並べたりしてはいけないものなんだ」といった声もあり (ただの愚痴じゃない!読書と労働の両立を目指す、累計発行部数15 …)、多くの人が無意識のうちに仕事最優先・趣味は後回しという価値観を持っています。このようなメンタリティは、日本独特の長時間労働文化や会社への献身的態度と結びついており、個人の自由時間である読書を軽視する風潮につながっています。対照的に欧米では、仕事後や週末に読書やスポーツなど各自の趣味を楽しむことが当たり前であり、同僚同士でも「最近どんな本を読んだ?」と会話の話題にする文化があります。フランスなどは国を挙げて読書文化を保護・推進しており、書店を保護する制度や読書週間行事が盛んです。また欧米には企業の経営者自らが「読書家」であり読書の重要性を説くケースも見られ、ビジネスパーソンが自己啓発の一環で読書会に参加するなどの慣行もあります。日本でも一部には社内読書会やビジネス書の輪読といった取り組みがありますが、広く一般には浸透していません。このように、労働と読書の両立に対する社会的許容度が日本と海外とでは異なり、日本では特に仕事のために読書を諦めてしまう傾向が強い点が特有の問題と言えます。
5. 労働と趣味(読書)の両立に関する提案
最後に、仕事と読書をはじめとする趣味を両立するための解決策や工夫について考察します。日本の働き方の中でも無理なく読書習慣を維持・向上させるには、個人・企業・社会それぞれのレベルでの工夫が必要です。
(1)労働時間の適正化とワークライフバランスの推進:
根本的には、労働時間を減らし余暇を増やすことが読書時間確保の最善策です。政府や企業は働き方改革を更に推し進め、時間外労働の厳格な管理やテレワークの活用による通勤時間の削減を継続すべきです。例えば、ヨーロッパにならって週休3日制の試行や、仕事効率を上げて**定時退社日(ノー残業デー)**を徹底することなどが考えられます。社員が早く帰宅しやすい雰囲気をつくることで、自宅で読書や家族との時間を持てるようにします。有給休暇の取得促進も重要です。連続休暇中に積ん読(積み上げたまま未読の本)を消化するなど、長めの休みは読書習慣を取り戻す好機となります。労働時間の適正化は社員の心身の健康にも資するため、結果的に仕事の生産性向上にも繋がる好循環が期待できます。
(2)スキマ時間・通勤時間の有効活用:
忙しい社会人であっても、スキマ時間を積み重ねれば読書量を確保できるものです。通勤電車・バスの中や休憩時間、待ち時間などを上手に使って読書することを習慣化するのが有効です。スマートフォン全盛の今だからこそ、あえて紙の本や専用の電子書籍端末を持ち歩いてみるのも一案です。本を常にバッグに入れておけば「5分だけ読む」といったことも可能になります。また、オーディオブックや朗読ポッドキャストを活用するのも現代ならではの方法です。耳で本を「聴く」読書なら、歩いている時や満員電車で本を開けない状況でも物語や知識に触れることができます。海外では通勤時のオーディオブック利用は一般的ですが、日本でも近年Audibleなど音声読書サービスが広まりつつあります。移動中の音声読書は、時間を有効活用できるだけでなく目の疲れも癒やせる利点があります。こうしたテクノロジーを活用した読書スタイルを取り入れることで、忙しいビジネスパーソンでも日々の読書量を確保しやすくなるでしょう。
(3)デジタルデバイスとの付き合い方の見直し:
スマートフォンやSNSに費やす時間を意識的にコントロールし、その一部を読書に充てる工夫も必要です。例えば就寝前の1時間はスマホを見ない「デジタルデトックス」タイムとし、代わりにベッドサイドで本を読む習慣をつけるなどが効果的です。ブルーライトを避ける意味でも寝る前の読書は推奨できます。あるいは、SNS閲覧の合間にニュース記事ではなく長めのコラムや電子書籍の一章を読むように心がけるだけでも、活字に集中するリハビリになります。スマホには読書の邪魔も多いですが、逆に電子書籍アプリや要約記事サービスを活用すれば読書量を増やすことも可能です。重要なのは意識的に長文を読む時間を作ることで、短い情報への慣れで低下した集中力を取り戻すことです。デジタル時代に即した新たな読書法(例えばSNS上で読んだ本の感想を共有しモチベーションを高める、読書管理アプリで目標を設定する等)も積極的に取り入れ、テクノロジーを敵ではなく味方にする発想が求められます。
(4)企業・組織による支援と風土作り:
企業側でも、社員の自己啓発やメンタルヘルスの一環として読書を推奨する取り組みが考えられます。例えば社内図書館・閲覧スペースを設けて業務関連書だけでなく小説なども自由に読めるようにしたり、社員同士が本の感想を共有する読書会を開催したりするといった施策です。昼休みや終業後に社内で静かに読書できる環境があれば、「忙しくて読めない」という言い訳も減るでしょう。また研修の一部として良書の輪読や読書感想発表を取り入れる会社もあります。そうした場を通じて読書の価値を再認識することは、個人の成長のみならず社内コミュニケーションの活性化にもつながります。さらに、「子育てと読書の両立」を支援する観点から、在宅勤務時には業務の合間に子どもと読書する時間を設けるといったワークライフバランスの柔軟な運用も有効でしょう。要は、企業文化として社員が趣味や教養に時間を使うことをポジティブに評価する風土を醸成することが大切です。「仕事以外のことにも熱中できる人」のほうが創造性やストレス耐性が高まるという研究もあり、企業にとってもメリットがあるはずです。
(5)社会・行政による読書推進策:
社会全体としては、図書館や書店といったインフラを守り充実させることが重要です。幸い日本では公共図書館の数が増加を続けており、2012年時点で過去最多を記録するなど「図書館が盛況」であるとの報道もありました (Public libraries are thriving — The Japan Times)。この傾向を維持し、誰もが仕事帰りや休日に気軽に立ち寄って本を読める環境を提供し続けるべきです。自治体による「読書通帳」の導入(読んだ本の記録を預金通帳風に残せるサービス)や、地域ぐるみの読書会イベント開催なども読書意欲を高める効果があります。また、国の施策として読書週間や子どもの読書の日(4月23日)の啓発を進め、大人にも「読書の秋」キャンペーン等で働きかけを強めることが考えられます。メディアも本の魅力や作家の情報を積極的に発信し、世間に読書ムードを醸成する役割を果たすべきでしょう。さらに、働く人々向けに「ビジネスパーソンにこの一冊」のような推奨図書リストを公開したり、ベストセラーだけでなく多様なジャンルの本に光を当てる工夫も望まれます。社会全体で「読書は有意義で楽しいもの」という共通認識を高めていくことが、長い目で見て労働と読書の両立を支える基盤となるでしょう。
おわりに
日本における労働と読書の関係を歴史的に振り返ると、江戸時代に頂点を極めた読書文化が、近代化と高度成長を経て徐々に弱まり、現代では労働環境の課題とデジタル化によって危機的な状況にあることが分かりました。長時間労働や通勤、スマートフォン漬けの日常が、人々から読書の時間と気力を奪っています。他方で、日本特有の勤勉文化や周囲の目を気にする風潮も、趣味としての読書を二の次に追いやる一因となっていました。
しかし読書は単なる娯楽ではなく、知的好奇心を満たし視野を広げ、心の糧となる行為です。忙しい現代人にとっても、読書はストレスを緩和し(わずか6分の読書で約68%もストレスが軽減するとの研究もあります (Reading Reduces Stress. Fact. — Medicine in Literature))、創造力や思考力を鍛える効果的な手段です。仕事一辺倒で読書をしない生活は、視野が狭まり精神的な余裕も失わせかねません。ゆえに、労働と読書の両立は働く人々のQOL(生活の質)向上のみならず、長期的には社会の創造性や文化力の向上にもつながる課題と言えます。
本報告で提案したような労働時間の適正化、スキマ時間読書の活用、デジタルとの賢い付き合い、企業や社会による読書支援策を総合的に推し進めることで、日本人が再び読書の喜びを日常の中で享受できる環境を整えていく必要があります。歴史を振り返れば、日本はもともと世界有数の読書好きな国民性を持っていました (西洋を圧倒!江戸時代に日本が世界屈指の「識字率」を誇っていた …) (8.22Tue.「読書を楽しむことの大切さ」)。その遺伝子は今も受け継がれているはずです。あとは時間ときっかけさえあれば、多くの人が本来の読書の楽しさを取り戻すことでしょう。仕事に追われる毎日だからこそ、本を開く時間を大切にし、自らの人生を豊かに彩る「知の旅」を諦めないことが肝要です。労働と読書のより良い関係を築き直すことが、日本社会にとってこれからの大きな挑戦であり希望となるでしょう。
参考文献・出典: 本文中に示した【】内の番号は参照情報を示しています。主な出典として、文化庁「国語に関する世論調査」結果【6】【8】、総務省統計局「社会生活基本調査」【22】、出版科学研究所のデータ【19】、OECDの統計【26】、各種ニュース記事・コラム【1】【3】【9】【23】などを利用しました。各出典の詳細は以下のとおりです。
【1】公文教育研究会「江戸時代の読書のヒミツ(前編)―人々の読み書きレベル」公文KUMONnow トピックス Vol.528 (2017) (江戸時代の読書のヒミツ(前編)―人々の読み書きレベル — 公文式) (8.22Tue.「読書を楽しむことの大切さ」)
【3】経済産業省「活字離れは本当か?(出版業・新聞業指数の推移とスマートフォン登場の影響)」METI/経産省 (2019) (活字離れは本当か?|その他の研究・分析レポート — 経済産業省)
【6】文化庁「令和5年度 国語に関する世論調査」結果の概要 (2023) (「月に1冊も本読まない」が6割超:進む読書離れ―文化庁調査) ([PDF] 令和5年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 — 文化庁)
【8】文化庁「平成25年度 国語に関する世論調査」結果の概要 (2013) (図録 国民の読書量)
【9】金松研「読書離れが深刻?1か月に読む本の冊数『読まない』が約6割」金松WEBコラム (2024年) ([PDF] 親と子の読書活動等に関する調査 — 文部科学省)
【14】Japaaanマガジン「江戸時代後期、日本は世界屈指の識字率を誇っていた」(2023年) (西洋を圧倒!江戸時代に日本が世界屈指の「識字率」を誇っていた …)
【17】ダ・ヴィンチニュース「スマホがない1970年代、通勤電車でみんなが携帯していたもの/『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』より」(2023年) (SNSがなかった頃通勤電車に乗る人々は何をしていたんだろう|mona)
【19】MBA Switch「データから読み解く国内出版市場の推移」(大前研一ビジネススクール, 2023年) (【データから読み解く】国内出版・書籍EC・書店市場)
【20】ILO Research Repository “Working time in Japan: Recent trends and issues” (2006) ([PDF] Working time in Japan : Recent trends and issues) (Japanese work environment — Wikipedia)
【22】総務省統計局「平成28年 社会生活基本調査」(2016) (【ホームズ】通勤に片道1時間半かかる場所のメリットとデメリット …)
【23】mi-mollet(講談社)「読書と労働の両立を目指すエッセイ」(2023年) (ただの愚痴じゃない!読書と労働の両立を目指す、累計発行部数15 …) (読書と労働は両立しないのか?|やひろ — note)
【25】Statista “Daily time spent reading books in Finland 2020, by age group” (2021) (Daily time spent reading books in Finland 2020, by age group)
【26】OECD Better Life Index — Japan (2020) (Work-Life Balance — OECD Better Life Index) (Japan — OECD Better Life Index) (Japan has some of the longest working hours in the world. It’s trying …)
【27】LoveMoney “Revealed: the countries with the best and worst work-life balance” (2021) (Revealed: the countries with the best and worst work-life balance …)
【21】Pew Research Center “Who doesn’t read books in America?” (2016) (Who doesn’t read books in America? | Pew Research Center), 欧州委員会統計 “Younger people and women in the EU read more books” (2019) (Younger people and women in the EU read more books)
【24】University of Sussex研究(引用: Newcastle Univ.ブログ, 2016) (Reading Reduces Stress. Fact. — Medicine in Literature) (※ストレス軽減効果に関する調査)