パソコンを使えなくてもスマホは使えるのはなぜか

Jun Rekimoto : 暦本純一
4 min readNov 26, 2018

パソコン(GUI)は30年以上も使われているわりに、あっさり「使いやすさ」の座をスマホに奪われた感がある。最近就任したセキュリティ担当大臣がパソコンを使っていない(使えない)ということが話題になっているが、「パソコン教室に行って覚えようと思ったが断念した」という答弁の後に「でもスマホは使いこなしている」と発言していたので驚いた。HCI研究者的には、技術が使いこなされていない現象に遭遇した場合には人間のせいにする前にまず技術側に課題がないかと考える。実際、スマホは使えるがパソコンは使えない(使わない)という人は多いし、もっと微妙にはスマホ・タブレットは使えるがパソコンは使わないという人もいる。この大臣のIT能力や経験を揶揄する前に、パソコンのUIに問題がないかと再検証すべきだと思った。ということでぱっと思いついた論点が以下です:

  1. パソコンはネットワークの接続設定が難しい。アクセスポイントやネットワーク契約など、接続までに必要な知識が多い。そういう情報を集めるのにもWebがないとできない。つまり最初は誰かに助けてもらわないかぎり一人では始められない。スマホは最初から接続されている。
  2. 「使える」の水準がちがう。スマホはとりあえず電話がかけられたら「使えた」といえるが、パソコンは何ができたら「使えた」と言えるかがわからない。水準がはっきりしないと達成感がない。「電話をかける」のような小さな達成ではなく、いきなり「ワープロ」「表計算」のような複雑なわりに達成感が得にくいものを学ばされる。
  3. キーボードがだめ。タイピングの経験がないとキーボードの沢山のボタンだけで拒否反応を起こすかもしれない。タッチタイピングというITとは別種の技能を習得しなければならない。カナモードやCAPS LOCKなどの「見えないモード」の落とし穴もある。スマホはボタンが少ないので一見その恐怖はない。スマホの文字入力も単純ではないが、スワイプだとあいうえお順とも言えるのでゆっくりで構わなければ最低限の学習で入力をはじめられる。
  4. スマホはいつも持ち歩いているので慣れる時間が多い。習熟するための時間が長いことに加えて、いつも手にし眼にしているものにはそれだけ愛着が湧くという「単純接触効果」があるかもしれない。掌で触れているという行為からもより強い愛着が発生するかもしれない。
  5. UI機器と操作。初心者がマウスのダブルクリックができない、ドラッグができないという話はよくきく。マウスの代替としてタッチパッドがあるが、マウスを知らずにタッチパッドだけ学ぶと謎感が高いのではないか。スマホのタッチパネルは代替手段がないぶん単純といえる。スマホの操作にダブルクリックやドラッグがほとんど登場しないのも単純さに寄与している。慣性スクロールはドラッグの変種ともいえるが、途中で指をはなしてしまっても被害がない。
  6. GUI的な比較。WYSIWYGは両者ともあたりまえ。デスクトップメタファーとかはあってもなくても良かった。むしろファイルとかフォルダとかが概念として理解するのが難しいのかもしれない。マルチウィンドウも便利でもあるが複雑性を増加させている。Altoで一生懸命開発していたUIは結局なんだったのかという気もする。スマホの「アプリごとに全画面」でおおむね大丈夫。それ以上の機能を求める人はもともとITができる素養をもっている。
  7. パソコンは画面が大きすぎてどこを見ればいいのかわからないという意見もあった。マルチウィンドウとアプリケーションとフォルダーとメニューバーの関係を理解しないと見どころがわからないのかもしれない。マルチウィンドウだと重要な情報がウィンドウに隠れてみつけられないという事態も起こりうる。
  8. そもそも、多くの利用者にとってはスマホで充分で、パソコンを使う必然性がないということかもしれない。

--

--

Jun Rekimoto : 暦本純一

人間とテクノロジーの未来を探求しています。Human Augmentation, Human-AI Integration, Prof.@ University of Tokyo, Sony CSL Fellow & SoyCSLKyoto Director, Ph.D. http://t.co/ZG8wEKTvkK